ムーミンは決してかわいいだけじゃない
スウェーデン第二の都市イェテボリの大きな催しものの一つである、フィルムフェスティバルが今年も1月29日から始まった。
この催しは1979年から毎年1月最終週から10日間開催されている。世界中から色々な映画がやって来て、特に北欧映画が集結する重要な場所となっている。場所はイェテボリの鉄の広場にあるドローケンという映画館を中心に街中の幾つかの映画館も参加している。
2021年はコロナの影響で映画館での上映は全てキャンセル。フェスティバルの歴史上初のオンライン開催となった。
例年ならば冬の暗い時期の長い夜を映画館をハシゴしながら過ごしたりする。そして鉄の広場周辺の幾つかの通りにはおしゃれなレストラン、カフェ、パブなどがひしめき合っているので、ワインを飲みながら映画の感想を話し合ったり、映画の待ち時間を過ごしたり。このフェスティバルで上映されるものは大箱映画館で上映されるようなものではなく、日本でいう名画座の様なところで上映される映画がほとんどだと思う。小さな会場でひしめき合って観るような時もある。寒い冬になんとなく気持ちも暖かくなる光景だった。しかし今年は全てキャンセルになったので街の様子もいつもとは異なるだろう。でも悪いことばかりではない。デジタル開催もスウェーデン全土の誰でもが自分の場所で映画が楽しめるのだからこれはこれでよかったと思う。まず遠く離れた地域に住んでいるとホテルや食事など準備するものが多い。家から出にくい高齢者や子どもを預けられない夫婦など、そういう条件を越えて、リビングや自室で楽しめる。
そんななかで今年は約70本の映画が出品されていて、日本からも川瀬直美監督の『朝が来る』が含まれている。
ラインナップから私が楽しみにしているのは、フィンランド映画『TOVE 』(2020) とマッツ・ミケルセン主演のデンマーク映画『En runda till 』(2020)、フィンランド映画『AALTO 』(2020)、そして川瀬監督の映画。これらは必ず観て、あとは興味ひかれるのをいくつか楽しみたいと思っている。
早速昨日の初日、『TOVE 』を観た。これはきっと日本でも上映されると思うし、観たいと思われる方も多いはずだ。トーベ・ヤンソン、あのムーミンの生みの親の生涯の1部が描かれているから。ムーミンが大人気の日本で公開されないわけがないと勝手に思っている。ネタバレはしたくないので詳しくは書かない。以下抽象的な文章になると思う。お許し願いたい。
私は子どもの頃からムーミンが好きだったし、チビのミイが大好きだった。アニメーションは楽しくみていたのだが、いざ原作を読むともうひとつ明るい気持ちになれない。アニメーションのムーミンとなんとなく別もののような気がしていた。
キャラクターも皆妖精だから性別もよくわからないし(パパ、ママは明確だが)、年齢も不詳。自由な感じはするがどこか影を感じていたのは私だけだったのか。
どんな異性がタイプかと年頃の時代、友達に聞かれて「スナフキンみたいな人」と言ったら、「あんなワガママにあっちこっち旅して、たまに帰ってきてギター弾きながら歌う様な人がいいの?」と言われて可笑しくなったことを思い出す。
トーベ・ヤンソンの小説も何冊か持っているが、あまり楽しいという印象はない。ムーミンの原作者なのにどうしてだろうかと不思議だった。
その謎がこの映画を観て解けた気がした。ムーミンで非常に親しみを感じつつ寄り添いたいのに、でもなんだかしっかりと心から分かり合えない、ちょっと突き放されていた様なもやもやした感じをなぜ受けていたのだろうという謎が。
その謎が解けて、気持ちが晴れた。これからはじっくり彼女の大人向けの小説にも向き合っていけると思うし、色々と読んでみたい。
そしてここからは諸々の感想。
まず最初、トーベがアトリエを構える時お金もない貧乏画家だったため暖房も、電気のスイッチもないがらんとしただだっ広い空間を大工仕事しながら棚を作ったり、電気のスイッチを自分で設置したり、非常にエネルギーに満ちた姿が清々しく力強さを感じた。
その後その空間が快適な心地よい空間に変わっていく。カーテンや家具、おしゃれな蓄音器、ワイングラスやリキュールグラス、さすがフィンランドでどれも素敵だった。そして友達とのホームパーティーなど、どんどん洗練されていく様子を見るとワクワクした。
そしてトーベのファッションも楽しめる。Alma Pöysti という女優さんがトーベ役だがよく作り込んでいたと思う。ショートカットも可愛いし、ワンピースやサロペットなど、ザ・フィンランド的デザインだった。決してmarimekkoの様な派手な柄ものではないのだが。ロングのコートも合わせている帽子も素敵だった。
そして何より音楽が素晴らしい。1940~1950年代のジャズミュージックが流れる。きっと当時のモダンの象徴だったのだろう。ちょっとシャンソンが流れたシーンもあったと思う。油絵を描く時の上っ張り、私も欲しいなと思ったり。
そしてフィンランド人のアルコール好きは北欧でも有名だが、本当にそうなんだとパーティーシーンでは感じた。
心に残る映画だった。多分時々思い出してまた色々考えることがあると思う。派手なセットやアクションがあるわけではない。人の気持ちだけを淡々と表して作ってある映画が私は本当に好きなんだと再認識させられた。
映画祭終わるまで色々な映画観て、せいぜいこの寒い暗い時期を楽しもう!!
トーベの本も頑張って読む!!!