Mitt lilla kök

北の果て,極少の台所から

台所から海外旅行に出掛けよう

ワクワク、ドキドキしながら初めてストックホルムのアーランダ空港に到着し空港内の建物に入った時、シナモンとコーヒーの香りに包まれた。思わず深呼吸した。なんて優しい美味しい暖かい香りなんだろうと思った。

早朝だったので、これから何処かビジネスに行くだろう人やちょっとパリまで(パリなのかロンドンなのかどこか全然わからないけど)という感じのスッと長身の男性も女性もかっこいい人たちが、カフェテリアでコーヒーを飲んでいた。

そして街に出て広場に出ている青空市場からはディルの香りが漂って来た。野菜を売っている屋台の横のバケツに無造作にディルがワサワサと花屋さんの切り花の様に置かれていた。その時はちょうど夏の終わりで、真っ青な空、ちょっとピリッと空気の冷たい感じの朝だった。その時から私にとってのスウェーデンの香りは、シナモン、コーヒー、ディルになった。

いろいろな国を訪れると、その国その国に独特の香りがある。そしてその香りはその国の食べ物の香りだ。(私が食いしん坊だから特にそうなのかも知れない。おしゃれな人だと香水とかの香りになるのかも)

その香りのもとは香辛料で、その香辛料は魔術師だ。スーパーに行って香辛料売り場に行けばびっくりするほどの種類の香辛料が並んでいる。その景色は圧巻だ。

スーパーに行き始めの頃、香辛料天国の気分であれもこれもと喜んで買い集めた。カレーは実家でも作っていたからターメリック、ガラムマサラなどは知っていたけど、そんなどころではなく、たくさんの中から結構いろいろ試そうと思ったのだが、どれをどう使えばいいのやら。

日本にも香りのものはたくさんある。香辛料とは少し異なるかも知れないが、わさび、山椒、柚胡椒、洋がらし、七味唐辛子など。それぞれの香りのものに合った料理が存在する。たけのこの煮付けの上にのった山椒の葉っぱとか、焼き鳥に山椒の粉も風味がいい。よく煮しまったおでんの大根やたこに洋がらしも良く合う。アツアツのキツネうどんに七味唐辛子を振れば身体も心も暖まり具合いが倍増すること間違いなしだ。

私が香辛料をひたすら喜んで買い集めていた時欠けていたのは、この土地の料理についての知識だった。ここで暮らし始めた当初 、夫が一冊の料理本を買ってくれた。それは料理の基本が書かれている基礎的な本。赤と白のギンガムチェックの表紙が私のツボだったが、いかんせん言葉がわからない。料理本だから辞書片手に何となく推測出来る気がするもののおぼつかない。

ハンバーグぐらいなら実家で作ったことはあったし、まあ大丈夫かと作って夫に出したらどうも腑に落ちない様子だ。

「変わってるね」

全然嬉しくない言葉だ。私としては、美味しいと言われるだろうと思っていたのにがっかりした思い出がある。

なぜ変わっているのか今ならよくわかる。香辛料の間違いだ。和食に出汁、酒、醤油、みりんが欠かせない様に北欧の料理における香辛料は、オールスパイス、ディル、タイム、月桂樹の葉、良質の塩、白、黒胡椒。製菓にはシナモン、カルダモン、バニラ。クリスマス感を出したい時は、思いっきりシナモン、カルダモンをきかせて、それに加え丁字。これらで何とか凌げる。これが基本だ。

例えば、先のハンバーグ。オールスパイスをきかせれば合格点が貰えたはずだ。イケアでおなじみのミートボール、普段も食べるが代表的クリスマス料理の一つでもある。クリスマスバージョンでシナモンと丁字をきかせたものを振るまったらゲストに大喜びされた。

焼かれる前のミートボール達。
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当たり前のことだが、香辛料もただ買い集めてもなかなか上手く使いこなせない。その国の料理をよく知ることが大切なんだと身を持って感じた。

上手く使えば 、簡単にいろいろな国に行かなくても台所から海外旅行出来る気分になれるツールだ。胡麻油の香りをきかせてコチュジャンとニンニクで韓国料理、醤油、味噌、出汁で和食、クミンやカイエンペッパーで南米風など。

香辛料は小さいパッケージなのに本当に奥が深くいろいろ遊ばせてくれて楽しいものだ。さあ、今日はどこの国に行こうかな。


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これが最初に買ってもらった料理本。         

表紙の可愛らしさとは裏腹にことばがわからず悪戦苦闘した思い出。

 

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ちゃんと香辛料についても書かれている。